少し前を歩いている小さな男の子とそのお母さん。
優しく手を引かれながら、よちよちと小さな男の子が
進んでいく。
二人との距離感が縮まってきたとき、
小さな男の子が振り返った。
「!」
「こやつ、なかなかできるな…。」
足音がないから、後ろを振り返ったら急に現れる僕に驚く人もしばしば。
気配を感知するとは、ただでは帰れんな…などと
訳のわからない物語を描いていたら、
にっこりとした笑顔で手を振ってくれた。
なんともかわいい姿にうっとりだ。
とろけた表情をしながら手を降る金髪が迫ってくる姿は、
その男の子のお母さんからするとなんとも滑稽な光景に見えただろうか。
ちょうど、横を通るときに、会釈をしながら
「こんばんは」と挨拶までしてくれたのだ。
おじいちゃんやおばあちゃんが孫を見るというのは、
こういった心境なのだろうか。
なんともかわいく、良い子だっだなー、とまるで世界はお花畑の中を
歩いて行った。
「ガタンゴトンガタンゴトン…」
吊り革をつかみ外を眺めていた。
動きが止まる瞬間というのは、乗り物にのったとき。
ちょっと疲れたから、吊り革をつかんだ腕に体をゆだねて、
変わっていく景色をぼーっと眺めていた。
「じーっ…」
「!」
下方から鋭い視線を感じたから、視線をその方へ
やってみると、ベビーカーに座った目のクリクリの男の子が
表情を変えずに僕を見ている。
視線を話さない彼に
「…なんだよ…」
とか思いながら、空気感を変えるためにニッコリする技を放ってみた。
「…」
しかし、瞬きはおろか、ピクリとも反応せず、彼にはまったく通じないようだ。
では、ということで若干変顔を繰り出した。
それでも彼は変わらない。
ならば、それならば、これなら…
などと、次々に技を繰り返していたら、さすがにそのお母さんは
お気づきになられ、クスッとしてもらえて救われたのだが、
肝心の彼はというと、クスリともしないから、こっちの牌ももうないよ、
というところで、お母さんが、男の子の顔を覗き見しながら、
面白いねー、とお話をしている。
なにか、空気読んであげて、笑ってあげてね、と
言われているようで、おかしくなってきて、自分がクスッとしてしまった。
しかし、かわいかったなー。
さて、電車を乗り換え次の目的地へ。
しかしながら、今日はついていない。
座ることができないし満員だ。
座席の橋の銀色のポールにもたれかかり、
ここでも変わりいく景色をぼーっと眺めていた。
結っていた髪が痛いから解いた。
「ぐっ!」
髪を解いてほっとしたら、髪の毛が捕まれ
ぐっと後ろに引っ張られた。
急のことで何が起こったかわからず、
後ろを振り返ると、お父さんに抱っこされた小さな
女の子こちらを見ている。
また無表情。
どうやらおもちゃと間違えたのらしいのだが、
振り返ると顔があったから不思議そうな顔をしている。
お父さんは平謝りしてくれたが、全然気にしない。
子どもたちに好かれたり、弄ってもらえたりするのは、
僕にとって、幸せなことだから。
しかし、この一日は小さな子どもたちと縁がある一日だった。