bow's Design(ボウズデザイン)

赤い口紅 イラスト

日記「赤いルージュ」

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いつの日だったか。
あれはたしか、仕事の打ち合わせへ向かったときだった。
お昼の時間が過ぎておやつの時間の真ん中あたり。
西へ向かう列車の中はすっかり空いていて、早い速度で映り変わる景色とは反対に、お昼過ぎの睡魔に襲われた乗客がとろーんとしていて、こくりこくりとしている乗客もいる。
そんな光景が見えたら、こっちも大きな欠伸が出てしまって、人が少ないものだから手で抑えず気が緩んだだらしない口が「くわぱ」と音を鳴らし欠伸を終える。
欠伸の涙をぬぐっていたら、どこかで大きな欠伸が聞こえた。
やっぱり「くわぱ」と聞こえてきて、窓から時折顔をのぞかせる太陽に、こちらは今日も平和です、とこくりこくりと挨拶。

目的地へ到着し、駅の時計を見たところ、やっぱりちょっと早かったようで、駅の近くにあるドーナツ屋さんに入って時間を潰すことにした。
注文を受けてくれた女の子はとても元気で明るく笑顔の素敵な子だった。
鮮やかな赤いルージュがとても印象的だった。
それが少しばかり歯に達しており、お茶目な一面をのぞかせた。
なんとも可愛らしく、きゅんとしたのだが、それと同時にこれは伝えてあげるべきなのか、と一休さんタイムに入った。
会計を済ませ、目の前にはトレイが置かれ、一枚の広告が敷かれた。
腕を組み読んでいるわけではないが広告を見つめる。
ドーナツのお皿が置かれた。
あと飲み物が置かれたらタイムリミットだ。
カラン、と氷の音がタイムリミットを告げた。
トレイを渡してくれた店員さんも明るい優しそうな人だ、きっと気付いたら伝えてくれるだろう、と席に行き時間を過ごした。

約束の時間が近づいて来たので片付けをし外に向かった。
そういえば…
店内は満席で忙しいようだ。
相変わらず明るい元気な応対の声が耳に聞こえてくる。
歯についた赤いルージュはまだ拭えていなかった。
自動扉が開き、外へ足を出した。
ありがとうございました、と相変わらず元気で明るい声が聞こえ、軽く会釈をした。
店の先に出たところで、しばらく立ち止まった。
伝えるべきだったのか…
しかし、僕は歩き出した。
眩しい笑顔を惜しむように。

お天道様、こちらは今日も平和です。
でも、どうやらちょっとばかりここのところ様子がおかしいようです。
あのような光景に出会うことは、この先あるのでしょうか。
そうですね、景色は移り変わっていくものですものね。

今日の作業用BGM

ルージュの伝言 / 松任谷由実

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