この音は滅多に聞くことのできない特別な音だ。
透き通らない重みのある質感の両の手で軽く持ち上げられる金属でできたこの飾り系におさめられた肖像画は一体誰なのであろうか。
きっと歴史的価値のある絵画であろう。
微笑にも悲しみにも見える表情を浮かべる描かれた人の目はどこを見ているのだろうか。
持ち運ぶときにどこかに打ち付けたのだろう、いくつかの傷が見えるから、これ以上傷をつけないように、丁寧に絵画を持ち上げる。
絵画の下には厚みのある織物が敷かれている。
織物に施されたこの文様はかつて繁栄した古代の王朝を示すシンボルだろうか。
はやる気持ちを抑えながらかけられた織物をゆっくりと取ると甘い香りが辺りに広がっていく。
箱の中には所狭しと金貨や高価な装飾品が敷き詰められていて煌びやかに辺りを照らす。。
赤の宝石が埋め込まれたブローチに一際目が奪われる。
お行儀はよろしくないが、手に取ってみて、灯りに掲げるようにしてそれぞれの品を吟味する。
間違いなくこれは本物だ。
甘い香りが手を口へと誘う。
この甘美はかつて栄えた王朝のとある記憶に連れていく。
なんだそれ、ただの石ころじゃないか、なんだそれ、ジュース瓶の割れたガラスじゃないか。
君にはそう見えるだろうね、でも僕にとっては大切な宝物さ、そして君にも君にとって大事なものを持っているはず。
でももう僕にはこれは必要がなくなったようだ。
箱の底には輪郭をぼかした黒いシルエットが映った。
箱を閉じると長い間しっかりと見ていなかった傷んだ肖像画。
ああ、君はかつての僕だったかい。
それではね。
寂しそうな表情を浮かべるも、最後は微笑んでくれた気がした。
ほのかに甘い香りを感じた。