酒が入って陽気な人たちが、楽しそうに連なって歩いている。
物足りないものは、缶ビールを片手にゆっくりとふらふらと歩いている。
帰ることを拒んでいるように。
楽しかった時間が終わろうとしているのを彼らは察知している。
きっとここはそれぞれの道を歩んでいく交差点。
別れが分かっているから、惜しむようにそこで立ち談笑が続く。
そんな様子を余所目に僕は歩いていった。
ハイエースのエンジンがついた音が聞こえてくる。
重厚感のあるドアが開く音が聞こえてくる。
道具や施行で使う薬品の匂いが漂う。
幾度も通り過ぎていく街灯の灯りによってわずかに照らされて自分がここにいることが確認できる。
プリント式ライターがヤスリと発火石をする合わせる音が何度か聞こえる。
ついた火があたりをオレンジ色の光で包む。
それが消えるとぶわっと煙草の煙が浮かび上がる。
その香りというのは様々だ。
長年慣れひたしんだ味というのは、どれひとつ同じではない。
いちいち口にしないが、拘りがあるのだ。
幾度も通り過ぎていく同じ景色は、時間が過ぎていくにつれ、少しずつ変化していく。
煌煌と街を彩っていた灯りや、生活によってついている灯りは、次第に消えていく。
時計を見てみると、目覚めの時間というのは、あと少しなのに、表面的に見えている経済活動というのは、こんな時間に終わるのか。
カブが踊るように短い距離を走る。
マフラーからふいている煙から香ってくるガソリンの香りが好きだ。
スタンドを足でかける音がが心地い。
経済活動というのは、もうすでに始まっている。
眠っている時間はなく、息をするように動いているのだ。
光をはなっていた。
太陽が少しずつ顔を出してくる。
鳥のさえずりが聞こえてくる。
冬になって冷え込む朝を、体を丸めてスタスタと歩いていく人。
僕を追い越して歩いていく人たちの後姿からいくつもの白い息が吹き上がっていく。
いくつもの工場の煙突からもくもくと吹き上がる煙のように。
無表情のまま歩いてく人々。
彼らはどこへ向かっているのだ。
そんな彼らを温かく見守るように、白かった太陽は赤々と希望に満ちた