信じようもないだろうが、大丈夫だ、安心してくれ。
ほら、この通り、何も持っちゃいない。
ああ、これかい??これはリュックといって、そうだな、なんといえばいいか、いやいや、これもここに置くよ。
これで何も持っちゃいない、ただ、君を助けたいだけなんだ、危害を加える気なんて一切ないよ。
近づいていくこちらの距離が縮まると、暴れて罠から体を振りほどこうとするが、深くかかった罠はより強く嵌り、激痛が走り、暴れることをやめる。
目の前に立った中腰になったこちらの顔を静かに見上げる。
何故ここが顔なのかを知っているのか。
諦めなのか、この真っ只中で一瞬のうちに摂理を悟ったか、喜怒哀楽のどれにも当てはまらない、なんとも読みにくい無の表情で、瞳孔揺るがず、瞬きなく、曇りなき瞳でじっとこちらを見つめる。
罠をゆっくりと解き、解けたや否や深手を負ったとは思えない跳躍を見せ、一躍、二躍、丘を駆け上り、気配が遠くなったところでこちらを見下ろした。
木漏れ日を逆光に獣のシルエットにうっすら窺える表情とは、やはり無である。
人とはここに物語を見る。
ここは森である。
腹を空かせた獣たちが木陰でこれを見ている。
手が進まない。
線を結ぶことは簡単だが、結ぶことで形が見えるのが怖くなることがある。
見えないから怖いものだが、見えるから怖くなることもある。
見えないままに、突っ込んで遭遇することの方がマシで、なんだったら、それはそれで面白い。
この線を引くのは地獄の道を引くように思えてしまうことがある。
そういうものに、人は物語を見る。
今日の作業用BGM
eminem soldier