僕はね、玄関という場所が好きでね。
安息な自分の空間へ繋ぐ入り口で、外界へ繋ぐ扉で、普段の生活において、出入りを行うことが以外に、特段なにか意味を持つような場所ではない。
自分の家の玄関なんて、まあ、そんなもので、殺風景でいて、その時の調子によっては靴の整列具合で明日の天気を読むくらいのものだ。
出かけるときは靴を履き出ていき、帰ってきたら靴を脱ぎ入ってく。
調子が良い時は、童心が還ってきて片足でバランスを取りながら靴が脱げるか??なんて遊びをはじめたり、足が絡まって盛大に転んだり、独り言を呟いたり。
時に忙しくなる時があって、大やら中やら小やらのいろんな靴が所狭しと敷き詰められていて、珍しく部屋が賑やかだ。
部屋という部屋を久方ぶりに人が往来するもので、部屋が喜んで活き活きしている。
俺は人がごった返しているところは苦手でね、ちょいと一服にへと庭へ出るとしますかね。
小さな兎が何匹もぴょんぴょん跳ねていやがるから、俺の靴が底の方へ行って見つかりゃしない。
せったを入って煙草に火をつける。
ふーと煙を吹きだしたら、背中に賑やかな談笑の声が聞こえてくる。
どたどたとまた幾匹の兎が外にやってくるよ。
平和だね。
この老体に容赦のない突進を決める兎を後、どれだけ受けられるじゃろうか。
儂はね、守りたいと思っているよ。
突然に土足で上がり込んできて、家では靴を脱ぐのはおかしい、やめるべきだなんて言われたらね、そりゃあむかっとくるもんでね。
ここにはここの良さがある。
おたくのところにはおたくの良さがある。
互いに敬いを持ちつつ、荒らすようなことはやめて、過度な干渉はおやめなさいな。
幾匹の兎たちが楽しそうに跳ねている。