行き交う人々を囲むように街宣車が走る。
車から降り、演説をはじめるが、見向きもせず幾人もの人が通り過ぎていく。
額に汗を滲ませ、顔をいがませ、立ち止まり、耳を傾けてもらえるように、行き交う人々の顔を見、声を枯らせながら演説している。
汗が垂れ、頭からは湯気が沸き立っている。
さすがの熱量に心打たれたのか、立ち止まり耳を傾ける者も現れた。
応援団も駆けつけ、彼の周りを囲い場を盛り上げた。
異様な盛り上がりに、次第に行き交う人々は立ち止まり、大きな輪を作り、盛り上がりは更に加速した。
その熱気たるや凄まじく、大きな渦を巻き、道を横断していく。
渦に巻き込まれるものもいれば、はじかれるものもいて、しかし勢力を拡大しながら、ゆっくりとした速度で進んでいく。
遠くまで行ってしまったが、人々の歓声はここまで鳴り響き、
多くの人々が通り過ぎた残骸が風に吹かれ飛んで行った。
過ぎ去った嵐がやってきたのは事実として、
あの嵐が一体何だったのか、誰も知る由は無い。

思考的実験「大衆の目」