ともちゃんが言った。
「目をつむるたびに、瞼にいろんな模様が見えるんだよ。
目をつむって見てごらん。」
言われるがままと好奇心とで目をつむってみた。

すると、真っ暗になった瞼の中で、様々な色の様々な模様が躍るのが見えた。
目をぱっと開けてともちゃんを見ると、得意げそうに笑顔でこちらを見て「ねっ！」と言った。
不思議な神秘体験をしたような、知らないことを知れたことで自然に込み上げる喜びの感情から笑顔になり、大きく頷いた。

友達と別れ、兄弟と遊ぶのも飽きたら一人遊び。
そのことを思い出して目をつむってみると、あの時とは違った模様が瞼の中を踊っていた。

家の近くに住んでいるおばちゃんはいつも笑顔で、いつも笑顔で挨拶してくれて、送り出してくれた。
学校から帰ってくるとき、おばちゃんを見つけたから挨拶しようと走っていくと、いつも笑顔のおばちゃんの表情は曇っていた。
「こんにちは、ただいま。」
それを聞くなり、はっと我に返ったようにいつもの笑顔になり「こんにちは、おかえり！」と返してくれて安心した。
ちょっと気になって遠くなっていく後姿を見た。

大人ってすごいな、と思った。
道端に咲いている野草や野花の名前を知っていて、遊び方を知っていた。
ボールを投げたら早くて、ボールを蹴ったら強烈で、力が強い。
いつも見ていたキャラクターの絵が自分では思うように描けなくて、おっちゃんに描いてと頼んだら、得意ではないど、と言って描いてくれた。
できたぞー、駆け足で背中に手をやり紙をのぞき込んだら、明らかに違っていて僕を満足できるものでなかった。
「へたくそー！」と言うと、ぼりぼりと頭を掻き苦笑しながら、「言ったやんー、得意じゃないって」と言った。
大人にも出来ないことがあるのかな。

あんなに喧嘩が強い友達が負けて顔をくしゃくしゃにして泣きながら帰っているところを見たこと。
笑顔を見たことがないあのこがあんなに笑っているところ。
いつもふざけているやつが一生懸命頑張っているところ。
無理して強がっているところ。
大人の人があんなに痛がったり、悔しがったり、悲しんだり喜びで大泣きするところ。

何を見、何を感じたのか。
目は口程に物を言う。
多くを語らずとも目は語りかけてくる。

ともちゃんが言っていたのを思い出したよ。
目を瞑るといろんな模様が見えるんだって？？
もちろん覚えているよ。
毎日やっていることだ。
今日の出来事を、瞼に焼き付いた映像を、眺めながら、明日、新しい一日を生きるのだよ。

今日の作業用BGM

Robert Palmer / Every Kinda People