「俺この曲好きやねん。」
唐突に始まった好きな曲紹介。
そう言って彼は小さな円盤を取り出しCDラジカセにセットし、再生して聞かせてみせた。
再生が終わり、特に感想を聞くことなく、電気を消して寝ることにした。
彼とは中の良い友人だった。
一年生から四年生まで、クラスが変わっても毎日と言っていいほど一緒に遊んでいた。
なぜそこまで仲良くなったのかは覚えていない。
そんな彼は四年生の時に、お父さんの転勤で遠くに引っ越すことになってしまった。
だから遊べなくなる、ってちょっと寂しそうに言うが、自分にはあまり意味が分からず、いつも通りに過ごすわけだ。
社会の地図を開いてみて、彼の言った引っ越し先を調べてみるわけだが、自分の住んでいるところと、彼が行く先が、絵的に遠いのが分かるが、それがどれほど遠いのか、なぜ遊べなくなるのか、意味が分かっていなかった。
引っ越しの当日。
彼らは午後に出立する。
だから出立するまで一緒に遊ぶ約束をした。
彼の住んでいる家にお邪魔したら、家具もなにもかもが空っぽで驚くほど広かった。
予定が少し早まったようで彼は出発することになった。
彼は別れを惜しみ、またいつか遊ぼう!と今生の別れを伝え、引っ越しのトラックにおばちゃんと乗り込み、窓から顔を覗かし手を振った。
僕はいつものように、また明日と言わんばかりに手を振った。
トラックが遠くなっていく、彼の手を振っている姿ちっさくなってく。
ああ、もう会えないのかもしれない…
そう思うと、唐突な喪失感と寂しさが込み上げた。
彼の住んでいる家には彼がいる跡がない。
分かれというのはこういうことなんだ、と思った。
その喪失感を忘れたのか、そうでないのか、彼がいない生活に慣れた夏休みのこと。
彼の引っ越し先の家にお泊りできることになった。
あんなに遊んでいたのに、久しぶりに会うので、互いに変な感じだったが、すぐに当時と同じような時間を過ごしていた。
彼はこちらでも上手くやっているようで安心した。
その夜、彼は唐突にそう言ってこの曲を聞かせた。
再生が終わった後、彼は特に感想を聞くこともなく、寝ようぜ、と言って、部屋の電気を消し、明日何して遊ぶかとか話しながら、彼は一足先に寝ていた。
自分はさっきの曲がちょっと怖かった。
何を言っているのか、意味が分からなかった。
怖かったけれど、何か心に訴えかけてくるようなものがあった。
時は過ぎ、ふと思い出した思い出。
その曲も同時に思い出され、久しぶりに聞いてみる。
その時の彼の思い、なにより彼の優しいおばちゃんの姿が見えてきた。
分け隔てなく、優しく、明るく、平等に接してくれた。
おばちゃんが仕事から帰ってきて、リビングで座っていた時の無の顔を見た。
自分にはいつものおばちゃんと違うな…くらいしか思わなかった。
ごはんを食べる時には、いつもの明るく、優しいおばちゃんだった。
今なら分かることもある。
ファイト!
エールが聞こえてくる。
きっと、おばちゃんには僕のことも手に取るように分かるのだろう。
ファイト!
頑張れ、いろいろあれど、この時が過ぎれば笑える時がやってくる。
ファイト!
あの時と同じように遊べるように、再会を喜べる時のように。
そんな思い出が蘇った深い夜の時間。
さて、以前描いた「闇」というサイレント物語を唐突に描きなおしてみたくて描きなおしてみた。
前の方が良い部分も多くあるわけだが、やはり、その時でしか描けないものがあるものだなあ、と思うわけだ。
イラストを使って動画を作ってみた。