縦肘をついて手の平に右頬をあずけた。
画面を見すぎていたためか、目の中に虹色の断層のようなものが浮かび上がり邪魔になったので、そのまま一息ついた。
目の解像度が落ちて、目から見える画面には粒子がちらほらと確認できる。
まるで、過去に写した映像を再生し、静かに眺めるかのように、目から見える画面の中に古い記憶が映し出されるのだ。
目の魚眼にフレームに入ってきたり、フレームから出ていったり、記憶が動いている。
他人事のように微笑ましく、他人事のように憤りを感じ、他人事のように悲しく。
静かに、瞳孔の動きだけで、感情の動きを表す。
痛いわけではないが、あちこちが痛み出す。
痛いわけではないが、痛くなる何かが体中を這いずり、体中をかきむしりたくなるように痛い。
痛みの原因を探し出し、取り払いたいほどに。
何かは分かっているのだ。
映像に触れることはできても、映像を削除することが出来ても、映像の中のモーションを掴み取り、止めることも、変えることも出来やしない。
掴み取ろうとした手は、画面に手を置くことしかできず、指の間から再生を続ける映像を見せ続ける。
強く押したところで、画面はびくともしないのだ。
解像度が落ちた粒子が欠け落ち、白く、淡く、ゆっくりと溶けていくように消えていく時、頑なに掴むことを許さなかった画面は実態を無くし、肩を透かすのように僕をよろめかせ前へ押し出すのだ。
忘却したのではない。
長い時間をかけて納得することが出来たのだ、ろう。
長い間、道を塞いでおきながら、「そんなことで止まっている場合ではなかろう」、と実態のない壁がひとつ消え去る。
無制限の時間の中、解のない難題を突き付けられ、その解というのは根競べ、であった。
いや、違う、自己問答を長い時間繰り返し、何度も解に導こうとしたが、躊躇したのは、納得ができなかったからである。
正しかろうと、間違っていようと、曇りなく答えることができた。
そのことが、歩むことを許してくれたのだろう。
体にまとわりつく暑い空気が汗を滲ませる。
ああ、灯篭の良い季節か。
夜道を照らす提灯が道を照らす。
立ち止まった向かいの提灯の灯りがゆっくりと消えていった。
消えた時、ゆっくりと穏やかに鼻から息を吸った。
歩こう、と思うのであった。
今日の作業用BGM
もののけ姫 JAZZ