名も顔も知らぬ旅人が、
積雪の道を歩き、雪を踏みしめる音が聞こえる。
その音は何故か懐かしく。
その旅人は孤独で当てもなくひたすら何かを目指し歩く。
時に錆びた弦から奏でられた音色は不思議なことに懐かしく、
その旋律は旅人が見ている景色をぼんやりと映し出す。
その景色は何故なのか、懐かしく、悲しげで寂し気な旅人の感情が体に染み行く。
夕日に向かい歩く旅人の後姿のシルエットはだんだんと小さくなり、
やがて姿が見えなくなった。
旅人の足跡は遂にはそこで途絶え潰えた。
砂埃を被った足跡を辿ってきた僕は、
この先足跡のない道を前に歩き出す。
彼の意志を継ぐように。

思考的実験「未だ見ぬ故郷」