ちっ…!まったくよう…どうにかならないもんかねえ…
こちとら気が散っちまっていつまでたっても作業が捗らねえ…
んっとお…にっイライラしてなんねえ…!
よお!どおした?
やけにイライラしてんじゃあねえか。
けっけっけ、こいつぁ良くないことにでも出会ったようだねえ…
他人の不幸は蜜の味、こいつぁひとつ聞かせてもらおうじゃあねえか!
おお、おめえか、丁度いいとこにきた。
ちょっと、聞いてくれよお、ったく仕事に集中できず弱ったもんだよ。
ここを仕切ってる旦那のことだがよぉ。
おお、俺もたいそう世話になってるが、旦那がどうしたい?
ここいらでは有名な活発な野郎でよ、
おお、ここいらでは有名だなあ。
ああ、有名も有名、そいつぁいんだがな、こいつが近くにいるとだな、とにかくうるせー!
ああ、ああ、はいはいはいはい、分かる分かる、分かるなあ!
そうだろお!
こいつが一度動くとでけえ音が鳴り響く。
確かにそうだ!
その後にそこいら中に響き渡る地鳴りがしやがる。
ああ、そうだそうだ、俺ははじめは天災かなんかと勘違いしていたんだ。
あまりにも頻繁に起きやがるから、っかしーなと思って原因を調べてたんだ。
旦那がいない時は静かなんだがな、旦那が現れるたびにそれが起きるんだな。
こりゃあたまげたね。
妖怪かなんかの仕業だと思っていたからね、とっ捕まえて見世物小屋でもやって一儲けしようと思っていたらね、旦那ときたわけだ。
あれをとっ捕まえたら俺の首が飛ぶどころの話じゃねえ。
それも一度や二度じゃねえ。
それなら些細なことだから誰だってやり過ごすことができらあ。
一度や二度っつてもだよ?一度のことに人はどれだけ動作があるか考えてみろ。
動くたびにうるせー音と地鳴りが鳴り響いてみろ、誰だって気になるっつーもんだろおよ。
そうだそうだ!
俺もあれにはイライラしていたんだ。
それだけじゃねえぞ!
動作に合わせていちいち独り言をのせやがる!
独り言単体ならかわいもんだが、爆発音に地鳴りに独り言の合わせ技よ、それが短い間に掛けて襲い掛かかってきやがる。
毎日毎日溜まったもんじゃあねえ。
まったくだ!
おい、おめえも話を聞いてたんだろ!?
おめえもそう思うだろう!?
おらは…あんまり気にしたことねえなあ。
おめえは馬鹿だから何も感じねえんだ。
そうだそうだ、まったくもってその通りだ!
あん!?なんだって!?おめえらも馬鹿じゃねえか!
ああ、そりゃあ違いねえな!
…っと、お前ら地鳴りを感じたな??
ああ。
来るぞ。
違いねえ。
あっ!旦那ぁ、お出かけですかいっ??
今日はこんなに空が晴れて心地がいい!
お天道様も元気に顔を覗かせてくれてますからね、今日ほど行楽に適した日なんてのはあ、そうありませんからね!
どうぞ、ゆっくり楽しんできてくださいね!
ええ!ええ!ではでは!
はあ…
ったくうるせーったらありゃあしねえ。
まったくな。
行ったな。
しばらくは静かに過ごせそうだぜ。
おらは知ってるぞ。
こっから二度、三度、戻っては行き、戻っては行き、を繰り返すんだ。
なんだおめー!
お前さんも実はよーく知ってるようだな。
悪い奴じゃあねーんだがな。
ああ、そいつはよく分かってるんだがな、
とにかくうるせーんだ。
それをのけりゃあただの良い奴だ!
名物の旦那の姿が見えなくなった頃、
木が柔らかにそよぐ音が聞こえるほどに、
集落はしばしの静かな時となる。