赤い丸のそごうのロゴを見ては、神戸に帰ってきた、と思った。
赤い橋を渡り、ポートターミナルを越えたときに、神戸の景色と海が見える。
夕方の神々しい光に景色が包まれていて、眩しい目でその光景を見たときに、ああ、家に帰ってきた、と感じた。
果たして僕に故郷と思える場所はあるのだろうか。
かつて過ごしたところは幾つかあるが、そこを故郷と呼ぶのは、僕の中で少々違和感がある。
戻りたいとも思わないし、少しずつ記憶が薄れつつもある。
ふとしたときに、瞼の中に映る景色がある。
目の前には一面に青い海が広がっている。
海を見ている辺りは木々が生い茂り、原っぱの中にいる。
イーゼルを置き、景色を描いているようだ。
瞼の奥から懐かしい香りを感じるが、どうやら故郷ではないようだ。
そこには一度も行ったこともないし、見たことも、聞いたこともない場所。
きっと古い記憶を見せられているのだ。
ここ数日また冷え込み寒い日が続いた。
丸くなりながら建物の外に出たとき、ふわふわと一粒の雪が目の前を舞い落ちてきた。
「あ、雪や。」と呟くと、通りがかった新聞配達中の高年のおじさんがカブにまたがりながら
「ほんまやな、ここら辺では今年初めての雪やな。寒いでな、兄ちゃん、風邪ひかんようにな。」
「ありがとう。おっちゃんもな。」と、カブの独特なエンジンを鳴らし、去って行った。
空を見上げると、青黒い夜空から風に煽られたくさんの雪が舞い降りてきた。
黒いアスファルトがだんだんと白に変わっていった。
降り積もった雪の上に足跡をつけながら、懐かしく、故郷に帰りたい気持ちになった。
僕の出身地は雪が降ることは珍しいことだ。
それでも雪や、降り積もっていく雪を見ると、懐かしく、故郷に帰りたい気持ちになる。
瞼の中に映る故郷の景色。
雪にはそんな思いを馳せる不思議な力がある。
瞼の中に映る故郷の景色。
果たして、この場所は存在するのだろうか。
積雪の上に形どられた足跡はどこへ向かっているのだろうか。
いつの日か辿り着けることができたなら。
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