bow's Design(ボウズデザイン)

三日月町のイラスト

イラスト日記「さようなら。」

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三日月町 イラスト

ガードレールのある坂道を駆け上がり、下り坂の車の中で、移り変わっていく窓の景色を見ると少し前に過ごした時間を思い出す。
家の向かいには中くらいの山が見え、視界の半分は空が広がっている。
辺りは田畑が広がっていて、季節によって表情を変える。
とても静かなところで、聞こえてくる音といったら自然が奏でる音、動物の鳴き声、たまに通り過ぎる車のエンジン音くらいだ。

金魚 イラストレーション

家にたどり着くと玄関の前にある石でできた器の中を覗き込む。
そこにはお祭りの金魚すくいで取ってきた金魚が今でも生きている。
時を経るたびに大きくなっていて、僕たちの成長と競争しているようだった。
最後に見たときには鯉のように大きくなっていて、あんなにかわいい姿だったのが、龍のような姿に変わっていたことに驚いた。

家に荷物を下ろすと颯爽と探検に出かけた。
離れにある木材で作られた家屋は薄暗く手入れがされていない。
その中にはたくさんの工具が敷き詰められていた。
大工の仕事をしていたときに使っていたのであろう。
少しだけ生活をうかがえるものもちらほらと置かれていた。

外に出ると溝があって水が流れている。
石をめくってみると沢蟹がまずいとばかりに、いそいそと次の隠れ家に走っていく。
草木が生い茂る溝にはイモリが泳いでいた。
泥水に手をやってみると小さな鰌が姿をあらわした。
川には蛍もやってきたが、年々と姿をあらわさないようになったそうな。
一匹捕まえることができて、空いた瓶の中に水と留まることのできる枝を入れて大切に保管した。
電気が消えて真っ暗になった部屋の一部を黄色い明かりが僕たちを魅了した。
朝起きて瓶の中を覗いて見たら静かに眠っていた。
小さな命の儚さと、そして純粋な子どもたちに美しい夢を明かりとともに運んでくれた。

少し歩いたところにある山へと繋がる坂道には、びゅんびゅんと勢いよく飛び回る昆虫がいた。
緑色を基調とした体で、光沢を持ち、斑点が描かれている。
捕まえてやろうとするが、なかなかすばしっこくて捕まえられなかった。
「ハンミョウ」という名前が分かったのは、帰ってから昆虫図鑑を読んでからだ。

時間を忘れて探検をしていたら、あっという間に日は暮れた。
街灯が少ないから、暗くなってしまうと心細くなる。
幽霊はいなさそうだが、お化けや妖怪が出そうな雰囲気はある。
家に戻ると風呂へ入る。
五右衛門風呂だ。
薪を持ってきて一緒に燃やしたものだ。
必要以上に薪を入れて止められたのを思い出す。

上がってきた頃にはみんなが集まっていて、バーベキューの準備がはじまっていた。
現場で使われたであろう明るいオレンジ色の灯の下では網の上で食材が焼かれる音とともに賑わいを見せていた。

向かいの山の奥の方で、「どーーーーん!」と花火が上がった大きな音が鳴り響いた。

花火 イラスト

小さな時はとても大きく見えたが、大きくなったときに見たときにはそれほど大きくはなかった。
それでも美しいのは変わらなかった。
最後の花火が打ち上がった。
確かなものではないが、勘というもので、終わってしまう勘というのは、不思議なもので外すことがないのだ。
きらきらと火が散り落ちて一粒が消えた。
終わりであることが分かっているが、終わって欲しくないから、まだ!まだ!と力のこもった願いのようなものが、口から溢れ出る。
空の舞っている花火の煙もだんだんと薄まり、深い夜空の中にキラキラと星が見えたときに寂しさが沸々と湧いてくる。
バーベキューの片付けが始まっていて、帰宅の準備が始まる。
あれだけ賑やかだった家も少しずつ静かになっていく。
玄関にたくさんあった靴も一足、二足と減っていく。
僕たちが靴を履いて玄関を出た時、いつものように二足だけぽつりと残っていた。
あの広い空間に互いに寄り添い、寂しさは感じなかった。
安心感があった。
それを確認してから車に乗り込んだ。

乗り込んだら窓を開け、握手を交わした。
温かい笑顔と、温かい手だ。
それは、明日を生きる力をもらったのかもしれない。
きっと、これまで、これからを生きる力を。

またね イラスト

車を発車し、二人と僕たちの距離が急速に離れていく。
手を振った。
今生の別れかよ、と思いはしなかったが。
ガードレールの坂道を登って下り坂に差し掛かると二人の姿は見えなくなった。
冷たい風が顔を煽る。
窓を閉め、移り変わっていく景色を眺めながら、過ごした時間のことを思い出す。
窓が曇りだすと、眠った兄弟の体重が僕の左肩にのしかかった。
窮屈になった体を動かし、窓に絵を描いた。
何を描いたのかは分からない。
起きた頃には消えてしまっていたから。

さようなら イラスト

昔から「さようなら。」は苦手だ。
去り際、というのか。
見送られることが苦手、見送ることは苦手でない、、、というか。
ただ、だんだんと見送る側の年に近づいてきているのだろう、と感じる。

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