bow's Design(ボウズデザイン)

でこぼこ写真

ふと、思い出した話

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でこぼこイラストレーション

あれは10代の頃。
訳あって初めてデスクワークとやらの
仕事に就いてそれなりの時間が経った頃。

その業界では有名らしく、先生と呼ばれている方が
会社にやってくるのだという。
アーティストでもあって、その会社の製品を使った
作品を作ったので、ビジュアル撮影を行うという。
そのエキストラとして手伝いをして欲しいというのだ。

特に断る理由も無い。
顔が写るわけでも無いし、その当時だって、
変な茶色で変なパーマが当たってような人間など、
世界観を崩してしまうため、向こうから願い下げであろう。

そんな事前情報を話してもらい、先生アーティストが
やってくる日がやってきた。
どんな人だろう、と少々緊張していたのもあった。

入り口の扉が開き、元気そうな明るい挨拶で
入ってきた。
年の頃は、45から50手前だろうか。
会社の者は丁寧にお出迎えをし、中に招き入れた。

奥の方から、その作品についての話題になっている。
すごいだの素敵だの、とその作品を讃える話が聞こえてくる。
僕だって気になっている。
見てみたい。
そんな素振りを見せずに、いつも通り作業しているわけだが、
パーティションの隙間から先生アーティストの姿がチラッと見えた。
クリスマスツリーのように体に巻いてあるなにかにくっついた
何色かのLEDライトがランダムにゆっくりと点滅している。

季節は夏だったと記憶している。
全貌が見えた時に
「なんじゃこりゃ!」と僕は心の中で叫んでしまった。

まんまやーん。
人間クリスマスやーん、などと
心の中で僕はディスってしまっている。

手をかざすと音がなるのですよ、と
なにかしら音がなっている。
このボタンを押すと…などとプレゼンテーションが
はじまっている。

いやいや…と僕の心の中ではツッコミたい衝動を
抑えつつ、なにやら騒がしい。
そんな心境とは裏腹に、会社の者は讃え、賞賛している。

そうこうしているうちに、歩く人間クリスマスツリーは…
いや先生アーティストは僕の方へゆっくりと近寄ってくる。
僕の目には、もはや保育園や幼稚園の特別イベントの劇で見せられる
怪物がゆっくりと近付いてくるようにしか見えず、
賞賛や驚きのスマイルではなく、変な口角の上がり方をしていて、
なんだかニヤけているように自分で思う。

どうやら感想を求めているようで、僕は
嘘をついて、驚きと賞賛の言葉を放った。
触ってもいいのよ、みたいな感じだから触ってみた。
思った通りの動きだよ、とか思いながら、
また僕にプレゼンテーションをしてくれている。

何か僕は壮大な嘘を見せられているような。
わざわざ僕のような小物のために、壮大なドッキリを
しかけてくれているのか、と周りの方の表情をうかがったが、
一片の曇りも無い。

そんな慌ただしい心境でいたら、
そうそう君も待っていよねー、みたいな感じで
次のターゲットへやっていき、プレゼンテーションを開始した。
僕はどうしても、その人の表情が見たくて、先生アーティストの肩から
覗き込んだ。

目が合わないが、どうやら口角がおかしい。
きっと僕だけでは無いのだ、と心の中で問答をはじめている。

そんな慌ただしい一日はあっという間に過ぎていき、
先生アーティストは帰って行った。
おい、あれはあれは…??
赤いヘルメットを被った「ドッキリ大成功!!」と書いた
プラカードを持ってくる人は??
それを見て、やっぱりー!おかしいと思ったー!
みたいな下りはないのか??
とそわそわしていたものの、何事も無かったかのように
その一日は終わり、「お疲れ様でした」と挨拶をし、
いつものように帰っていったのである。

その当時は理解できなかったものが、
年を経ていくにつれて、理解ができるようになって、
驚くことがあったり、感動したり、納得できることが
増えていくものの、この一件について、ふと思い出して、
遡って考えてみるものの、理解や感動に至る要素が
全く見当たらなかった。

ありゃ、一体なんだったのか。
今の僕にはまだまだわからないままでいるのである。

木太聡 / 女と椅子 at サラヴァ東京

原稿用紙
 

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