おっ!
ラッキー、500円見つけた!
ちょうど喉が渇いていて飲み物を買おうとしているところだったからね。
学びながらバイトしてては、そこまで稼げないからね、500円は大金だ。
さあ、僕の奢りだ、君は何を飲む?
ちょっと、待ってくれよ。
それは君のお金ではないじゃないか。
交番に届けた方が良い。
真面目だなあ、君は。
届けたって持ち主のところへ戻ることはないさ。
だからこいつはたった今俺の金になったのさ。
おい…
大人だったら諦めても問題ないだろうが、
子どもだったらどうするんだ。
こんな繁華街に小さな子どもが遊びにくるわけはないだろう。
そんなこと君だって分かっていることではないか。
しかしだね、これは君のお金ではないだろう??
落として困っているかもしれないではないか。
俺も一緒に行くから、交番へ届けに行こう。
ったく、君は真面目な奴だよ。
そういうところ、俺は嫌いじゃないね。
しかしだね、落として困ってるなら、まだここで探し回っているはずだ。
探しているような人物は見当たらないってことはだね、
とっくに諦めて、そのことをとっくに忘れて過ごしているさ。
同情するがね。
500円ってなあ、大金だからな!
だからさ、せめて、落とした人が使ったように俺が使ってやるのさ。
同情するのなら、僅かな可能性にかけて交番に届けておいてやることだろう??
持ち主が見つかったならば万々歳ではないか。
ははは、君の言うことは正しいとは思うがね、持ち主が見つかる可能性はかなり低いだろうね。
例えば、このお金の額がこれをはるかに超える大金なら別だがね。
俺がもし落としたなら、血眼になって探すからな。
このくらいなら諦めがつく額だよ。
さあさあ、くだらない話は止めて喉を潤すとしようではないか。
そうかもしれないが、そいつは駄目だ。
届けいに行こう。
君はまったく頭が固い奴だね。
だから、俺は君のことを気に入っている。
だが、今の君の提案を飲む気はない。
俺は渇いた喉を君と潤したいのだよ。
例えば、交番に届けたしよう。
俺はこれまで述べたようにだね、きっと持ち主が見つからないまま時が過ぎていくわけだ。
額が大きければ話は変わってくるがね、このくらいの額ならば、いずれにしろ自分の物となるか、もしくは国に帰ってくわけだな。
だとするとだね、今この拾ったお金を使ってあげることが、合理的で正しい使い方なのだよ。
使ってあげなければただの効果で価値がないわけだ、しかしだよ、今使ってあげることで価値が生まれるわけだよ。
金というのは天下の回りもの、というだろう。
天下にとって僅かな額だろうがね、今使われることによって、僅かだがね、経済に寄与することになるのだよ。
ふむ、君の言っていることに一理あるし、合理性もうかがえるが、しかしだね、それは、そういった使い方はいかがなものだろうか。
君はそう言うだろうな。
まったく正しい。
同意するよ。
ならば…
いやいや、そういうことではない。
俺の意見が変わったわけではない。
君の発言に同意しただけだ。
何を言っているのか…
確か、君は上流階級の出自だったね??
自分はそうは思っていない。
君と僕と何も変わらないだろう??
はっはっは!
君という奴は本当に出来た人格の持ち主だ。
皮肉を言っているわけではないんだぞ、
心から尊敬している。
何が言いたいんだ??
はっはっは、いやいや、それよ。
君は上流階級で生きてきたってことだよ。
君の発言は全く正しい。
まるで、武士のようだ。
僕には馬鹿にしているようにしか聞こえないな。
いやいや、気分を害してしまって申し訳ない。
馬鹿にしたり、皮肉を言っているつもりはこれっぽちもないのだ。
嘘偽りなく、本当のことだ、命をかけよう。
僕は君のそのような振る舞いに心から敬いの念を持っている。
何故ならば、俺もそのように思うからだ。
君の言っていることと、やっていることは矛盾しているのは自明のことではないか??
ははは、それはそうなんだがね、君がそのように発言し、そのような態度で生きられるってのはだね、君がそのように生きられる権利を持っているということだよ。
そして、俺はそのように思っても発言しても、そのように生きる権利がないから俺に矛盾がはらむのだよ。
君も生きる権利は持っているではないか。
そらあそうだが、その発言はやや抽象的ではないか。
そいつあ、綺麗ごとってやつさ。
権利とは具体的には複雑なもので、平等なものではないからな。
君が上流なら俺は下流の出自だ。
君と俺にはそういった違いがあるが、俺が君に共感するのは、俺が親から同じようなことを教えられて育ってきたからさ。
しかしだね、何も持たざる者、後ろ盾がない者にとって、そのように正しく生きることは大変ってことだ。
褒められることもあるがね、寧ろ損するばかりでね、困ったものさ。
俺はたびたびこれに悩み苦しんだがね、そういう生き方は止めた。
俺なんかにゃあ、そんな高尚な生き方は土台無理ってことなんだ。
自分が思うように、自分が苦しまずに、楽しんで生きていけるように生きることが、誰にも迷惑かけずにいられるってことなんだよ。
君がそのように生きられるってことは素晴らしいことだが、しかしだね、それとこれとは関係のないことではないか。
いやいや、関係のあることなんだよ。
君は将来、多くの人が幸せに生きらる社会を作れるような人間になりたい、と言っていたではないか。
ああ、そうだ。
今も変わらない。
しかし、それも今は関係のないことだ。
関係のあることさ。
君はそういった多くの中にいる一人と今対話しているってことだよ。
君のように正しく生きられる奴ばかりではないってこった。
頭の中ではそう思っていてもね。
君は僕にとって理想の人だ、そうなりたかったし、そうなりたいと思っている。
しかし、そうなれるかどうかは、まだまだ分からない、持たざる者とは思っている以上に意味ある努力をせねばならない。
君はこのまま行けば夢を実現できるだろう。
俺は君のことを心から応援しているし、夢を叶えて欲しいと思っている。
そして、俺は君を追いかけ続けるだろう。
…
ほら、君の珈琲だ。
普段珈琲は飲まなかったっけ??
ははは、考えているところ申し訳ないが、受け取ったのだからね、返さないで飲んでくれよ、俺の奢りだ。
そうさ、さっき拾ったお金でね。
君はどんな人でも分け隔てなく、人間関係を築ける希少な人材だ。
今日の出来事が。
今日俺と一緒に飲んだこの缶珈琲の味が、将来の君の中で何か役立つことになるかもしれないぞ。
さあ、帰ろうか。
堅苦しい話は止めて、楽しい話をししょうじゃないか、ははは。
…
ははは、全く君と言う奴は頭の固い奴だ。
変わらないね。
志半ばで居なくなってしまうなんて…
君のような人を失ってしまうことは僕たちにとって大きな損失だ。
だけど、君がやってきたことは、とても大きな意味のあることだったぞ。
俺は君の意志を引き継ぐから安心してゆっくり休んでくれ。
また、缶珈琲でも飲みながら楽しく語り合おう。