とんとんとん。
ごめんください。
とんとんとん。
ごめんください。
…
とんとんとんとん。
ごめんください。
あー、はいはい、今行きますから、ちょいとお待ちくださいな。
深く考え事をしていたら、ついつい何も聞こえなくなってな、よっこいせ。
がらがら。
はて??
どちら様じゃったかな??
お忙しいところ恐縮であります。
私、摂津からやって参りました中西平次郎と申します。
大島先生のご著書を拝読しまして、ぜひお話を聞かせていただきたくご訪問させていただきました。
ほう、こんな若人の客人とは珍しい。
またわしの本を読んだとな、お主は変わり者じゃな。
遠方からご苦労でしたな、ささ、狭い所じゃが中に入って茶でも一緒にどうかな。
は、ありがとうございます。
失礼します。
ちょいと考えに集中しておってな、そうなると、何も聞こえなくなってしまってなあ…
は、分かります。
お、分かってくれるかね、嬉しいのう、ささ、そこに座ってくつろいでくださいな。
は、失礼します。
そんなかしこまらんでくれんかの、ほらほら足を崩してくつろいでくださいな。
先生、お口に合いますかどうか、書籍の中で菓子を使った比喩を使われていたのを見て、もしや甘いものがお好きなのでは、と思い、お持ちさせていただきました。
ほお、お主鋭いな!
わしは甘いものが好きでな、考え事をしていたら甘いものを体が欲するようでな。
この年のせいか、食べる事には然程興味はなくなったのじゃがな、甘いものは定期的に欲しくなるな。
こりゃあ美味い!
お前さんもひとつどうかな??
いえ、結構です。
甘いものは嫌いかな??
いえ、好きであります。
では、ひとつ…
いえ…
もしや、お主…毒を入れた饅頭を…??
やはりお主、刺客か…!!
とんでもないことです!
はははは、冗談じゃ冗談じゃ、真面目な若人をからかってすまんすまん。
して、一体何用じゃったかな、その刀でわしを切り捨てに参ったか、まあ、それも良かろう、わしには戦う力も残っておらん。
抵抗することなく、お主の太刀と死を受け入れようではないか。
わしを切ったとて、老いぼれ一人がいなくなるだけ、なあんの力もない老いぼれが消えても何も変わるまい。
先生、滅相もないことです…!
私は刺客でもあなたを切りに参ったわけでもありません。
ははは、分かっておる、分かっておる、お主という人間が、先ほどのやり取りでよく見えたというものだ。
先生のご著書を拝読させていただき、大変感銘を受け、どうしてもお話をお聞かせいただきたく、事前に便りも出さず、失礼を承知の上、体が動くのを制止することができず、体が動くままに参った次第でございます。
ははは、お前さんらしい、わしも若い頃はそんなことがあったな。
しかし、このような書籍を手に取り読むとは、なかなかの変わり者じゃ、訪ねてきてくれたことを嬉しく思う。
世の考察、流れを作る構造の分析、構造にある要素とそれらの因果関係等、大変興味深く、ぼんやりと頭に浮かんだ思考が言語化されていて、私は考えも及ばなかったところまで網羅された素晴らしいご著書だと思っています。
ありがたいことじゃ。
が、しかし!
ここまで世の構造を紐解き理解しているにも関わらず、
私たちの世がより良くなるために私たちがどのようにしていけば良い、という結論が、
このご著書には一切書かれておりませんでした。
本日は、ぜひ、先生がお見えになっている結論のお話をお聞かせいただきたく。
ふむ、なるほど。
分からん。
は??
そんなもん、分からん。
…と、言いますと…??
ところで、お前さんが持ってきてくれた饅頭、こりゃあ大変美味だ。
は、お口にあったようで、恐悦至極に存じます。
しかし、これに至るに、どれだけの時間を要し、どれだけの人が血と汗を流してきたのじゃろうか。
構造を見るに、生地と餡子で構成されていて単純な楕円で仕上げられた菓子じゃ。
過程でこの美しい楕円が歪なこともあったじゃろうて。
餡と生地の塩梅が良くないこともあったろうな。
この味を作り上げるために、どれだけ練り上げたのだろうか。
まるで、饅頭を食べる人の笑顔が浮かんでくるようじゃ。
変わらない味を守るため、日々変わっていくものと歩みながら今日も作り続けているわけじゃ。
さて、これは、お主にとって望んでおった、聞きたかった結論ではないかもしれない。
世を饅頭に例えるならば、現在は味も良くなければ、美しい形をしておらぬかもしれぬな。
しかし、美味しい饅頭を作ろうとする気概を持った若人が今、ここにいる。
それをわしは嬉しく思うし、それに希望を抱く。
さ、お主もひとつどうじゃ??
いえ、わたしは…
なんでじゃ??もしかして、毒を…??
やはりお主、刺客か…!!
いえ、滅相もございません!
では。
お主宿はとっておるのか??
いえ、野宿で大丈夫ですから。
そこで寝ていくといい。
お主酒は??
私下戸でして…
おお、奇遇じゃな、わしも下戸でな、茶で良いな??
先生、どうかお構いなく、ところで、十八頁に書かれてあります…
ああ、ああ、それについてな….
…………
っていう。
だいぶん前に、書いていた絵とざっくりしたお話でお茶のCMめいたものを思いついたものを雑に仕上げてみた。
お茶のペットボトルを作ってみたら、思いのほか、既にある商品の丸パクリのようになってしまった。
茶畑と青い空を背景にペットボトルを前に出すイメージである。
会話と問答をもっと古風な形式にしたかったのだが、学がないもので、学ぶ必要がある。
実験である。
きっと、饅頭を思い出すであろう。
今日の作業用BGM
kotowari