縫い針の小さな穴を覗き込み、片目を閉じて片目を見開き、ピントを合わせて、片方の手で細い糸を持ち、手をカタカタ震わせながら、そーっと通す。
古典的な「ぼけ」のようで、いや、そっち違うから、いや、そっちも違うから、ここ、こーこ!、という「つっこみ」が聞こえてきそうなくらいに、糸はわざとらしく左右に振りながら穴を見事に通り越す。
もう一度デモンストレーションをするからちゃんと見といてな、と聞こえてくるから、よし分かったと両の手をすさすさと擦りながら、こうやんね、こうやんね、ここまでは完璧やんね、と確認しながら、さあここからだ、と見事に外して、もうええわ、と頭をはたかれる、という雛形的やり取りの繰り返し。
こういったタッチ感のねたをやる芸人さんが数グループ頭に浮かぶが…
(スレダーという道具があってだな、もっとお手軽な通し方があるのだが…こういうモードになるとこの方法で通さずにはいられないのだ)
そんなこんなでようやく糸を通すことができたと油断していたら、何かに引っかかって、すっぽり抜けてしまう、という余計なぼけを盛り込んでき、余計に頭をはたかれるのだ。
ふうっと、溜息のような大きな空気が口から抜けて、玉結びを決め込んで、いざ、と綿の生地に針を通したところ、穴があいて、すーっと糸が心地よく通っていく。
繰り返し、繰り返し、縫っていく。
思いついた遊びではあるが、遊びだけではない。
パソコンを使えば簡単に表現はできるが、ジグザグになった軌跡に「美」のエッセンスを混ぜ入れるには手作業による表現が適していると考えている。
平坦では無かった長い歩みのように、それらが形になって現れるように。
軌跡で埋まった生地を手に取り眺めてみると、生地の成り立ちは、いくつもの糸の折り重なりで形成されていることが改めてよく見えた。
ああ、形というのは、あらゆるものが折り重なって目に見えるようになっているのだなあ、と。
今日の作業用BGM
VULFPECK / Disco Ulysses