「僕は月が好きだ。」
「見たことのない虫を発見したときのように。
心がどきどき、わくわくして、
捕まえてやろうと必死になって追いかけた。」
「でも、追いかけても追いかけても捕まえることができなかった。」
「あんなに近くにいるのに。」
「僕はいいことを思いついた。
網がとどくような大きな階段を作ることにした。
お父さんが手伝ってくれた。
お母さんは虫取り網が伸びて長くなるようにしてくれた。
猫のクロは応援してくれていたけど眠っちゃったみたいだ。」
「次の休みの夜。
階段と伸びる網を持って行って捕まえようとしたけど駄目だった。」
「見かねたお父さんが、一冊の本をくれた。
お父さんが小さい時に読んでいた本らしい。」
「その本には月のことが書いてあった。
月の他にもたくさんの星があって、空よりも広い宇宙があることが分かった。」
「頑張ってお金を貯めて望遠鏡を買った。
宇宙の勉強もたくさんした。」
「月を捕まえるために。」
「僕はとても大きなものを追いかけていたようだ。
この虫かごには収まりきらないとても大きなものを。」
「この虫取り網では捕まえられない大きなもの。
この虫取り網をいくら伸ばしてもとどかないもの。」
「そんな大きなものを僕は追いかけていた。
きっとこれからも。」
はじまり
目的地まで少々長い道のりになる。
そうなることを見越して予め後ろの広いシートをおさえておいた。
足は伸ばせず、決して快適とは言えないが、リュックを枕にして横になることくらいはできる。
エンジンがかかり機体が大きく揺れ、その後小刻みに振動している。
横になった姿勢でリラックスした状態で機内の天井をじっと見ていた。
いよいよである。
10,9,7,8…カウントダウンがはじまる。
3,2,1エンジンが調子が良いぞと言わんばかりに大きな音を車内に響かせ、発車した。
幾許かのGが体に伸し掛かり、シートの方にぐっと体が沈んだ。
乗り始めは慣れないもので未だに酔いそうになる。
スピード、航路が安定する頃には、こちらも再びリラックスした状態で過ごしている。
連日バタついていて体が疲れていたせいもあって、エンジンが安定し車内がほどよく温まってきて急な睡魔がおとずれ眠ってしまっていた。
しばらくして、何かに気付いたように目覚めて、体を起こし窓の方を眺めた。
どうやら安定した航路を走っているようだ。
外は深い黒の世界が広がっており、無数の恒星がキラキラと美しく輝いていた。
中でも一際目立つ月の存在。
いつも見る月よりも真っ白く、強く穏やかに光を纏いこちらを覗き込んでいた。
そんなとき、子どもが走っているような足音が耳元に聞こえてきた。
その足音が耳元から窓の外の方へ向かっていった。
つられるようにいそいそと体を起こし、窓の外の景色を見た。
虫取り網と籠を持った少年が、月を捕まえようと必死になって走っている姿が見えるような気がした。
走っても走っても、追いかけても追いかけても、距離は縮まるどころか、触れることもかすることさえもできないでいる。
あんなにも近く見えるのに。
手が届きそうなところにあるのに。
額に汗を滲ませ、それでも諦めずに走っていく少年の姿の幻影を微笑ましく眺めていた。
夢を叶えるということは容易ではない。
知れば知るほど、広大で膨大で、とてつもなく大きなものに挑もうとしている。
叶えることができる者もいれば、儚く散ってしまう夢もある。
しかし、いずれにせよ、それは膨大な宇宙の中にある星のひとつのようなもの。
どういった結果が待ち受けていようと、ひとつの星に到達した瞬間にまた膨大な星が見えてしまう。
また次の星に向かわないといけないのだ。
自分の一生を星座に描くように。
夜空に輝く星々を見ては思う。
たくさんの人々が走っている姿が。
日記「絵本づくり」
さて、またひとつ仕上げることが出来て満足。
デザインを調整して、電子書籍で出せればなー、と思っています。
NASAのウェブサイトにはいろいろな音声がありました。
●NASAウェブサイト
https://www.nasa.gov/connect/sounds/index.html
今日の作業用BGM
くるり / 奇跡