
「僕は月が好きだ。」

「見たことのない虫を発見したときのように。
心がどきどき、わくわくして、

捕まえてやろうと必死になって追いかけた。」

「でも、追いかけても追いかけても捕まえることができなかった。」

「あんなに近くにいるのに。」

「僕はいいことを思いついた。
網がとどくような大きな階段を作ることにした。
お父さんが手伝ってくれた。
お母さんは虫取り網が伸びて長くなるようにしてくれた。
猫のクロは応援してくれていたけど眠っちゃったみたいだ。」

「次の休みの夜。
階段と伸びる網を持って行って捕まえようとしたけど駄目だった。」

「見かねたお父さんが、一冊の本をくれた。
お父さんが小さい時に読んでいた本らしい。」

「その本には月のことが書いてあった。
月の他にもたくさんの星があって、空よりも広い宇宙があることが分かった。」

「頑張ってお金を貯めて望遠鏡を買った。
宇宙の勉強もたくさんした。」

「月を捕まえるために。」

「僕はとても大きなものを追いかけていたようだ。
この虫かごには収まりきらないとても大きなものを。」

「この虫取り網では捕まえられない大きなもの。
この虫取り網をいくら伸ばしてもとどかないもの。」

「そんな大きなものを僕は追いかけていた。
きっとこれからも。」
今日の作業用BGM
くるり / 奇跡